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実験計画法が必要な5つの理由

はじめに

職場などで実験計画法を利用しようと思ったとき、周りの人にどのように説明すべきが悩んだことはありませんか?本記事では、なぜ実験計画法が必要なのか、私が考える5つの理由を説明します。

そもそも実験計画法って使えるの?

実験計画法が必要な理由について説明する前に、実験計画法がいかに強力なツールであるか、こちらのペーパーヘリコプターの例で説明したいと思います。

sturgeon.hatenablog.com

この実験では、ペーパーヘリコプターの落下時間を長くすることに挑戦しました。下の動画は、はじめに作ったペーパーヘリコプターと、最適化後のヘリコプターを比較したものです。

youtu.be

ペーパーヘリコプターの落下時間を最大化するためには、翼の長さや、ボディーのバランスなど様々な要因があります。本実験では、9つの要因を変更して異なる構造のペーパーヘリコプターを作製し、どのような構造にすると落下時間が最も長くなるか調べました。

この場合、9つの要因を一つ一つ変えて実験するのは、効率のよい戦略ではありません。なぜなら、「短い翼・広い幅」や「長い翼・狭い幅」のように組合せが無数にあるからです。仮に、9つの要因に対して2つずつ(低い・高い)値を考慮したとしても、全組合せは29=512通りあります。

その多くの組み合わせの中から最適な条件を見つけるのは、非常に手間がかかります。

しか、実験計画法を使用すれば、それがわずか20回程度の試行で完了します。このように、実験計画法は本当に強力なツールなのです。

それでは、以下に実験計画法が必要な5つの理由をまとめます。

理由1:効果の定量的評価ができる

普通の試行錯誤的なやり方だと、すべての組合せを調べるわけではないので、ちょっとずつ色々な要因の値を変更していくと思います。それで「最適らしい」条件にたどり着いたとしましょう。

しかし、振り返ってみると、一体どの要因がどの程度重要だったのか? 分からないことがあります。つまり、効果の大小評価が出来ないのです。実験計画法を使用すれば、そのような問題はなく、どの効果がどの程度重要で、どの効果が重要でないのかを定量的に議論することが出来ます。

ちなみに、「どの効果が重要でないか」を知ることはとても重要です。なぜなら、調べる意味のない因子を調べなくて済むからです。

理由2:交互作用を調べることができる

まず、交互作用とは何であるか下図を使って説明します。この図は縦軸が応答y、横軸が要因Aの水準を表しています。

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図には要因Bが-1および1のときの要因Aの効果(青線とオレンジ線)が示されていて、これらの効果が異なることが分かりますね。このとき「交互作用ABが存在する」といいます。青線とオレンジ線が平行ならば、「交互作用なし」です。

通常の試行錯誤的なやり方だと、このような交互作用を評価することは難しくなりますが、実験計画法ではしっかり評価することができます。

理由3:決められた少ない試行回数で実験が完了する

今、ペーパーヘリコプターの9要因2水準実験を考えます。可能な組み合わせをすべて実験して最適な条件を見つけることは不可能ではありません。しかし、要因が9つもあるので全組合せは29=512回になります。これらを一つずつ調べて行ったら、いつになったら良い条件に辿り着くのかわかりません。

しかし、実験計画法を使えば計画によっては「〜回の実験で結論を出せる」と事前に見積もることができるのです。

しかも、その回数は全組合せよりずっと少なく、例えば9要因2水準のPlakett-Burmann計画なら、わずか12回の実験で行うことができます。

理由4:モデル式でシステムを理解できる

実験計画法を用いる理由の一つにモデル式を作成することが挙げられます。モデル式とは、例えば要因Aと要因Bの値によって応答yの値を

y=2A+3B

のように表した式のこと。A、Bには要因AとBの値が入るので、A、Bがいくらのときyがいくら、という予測ができます。

理由5:最適解を発見できる

実験計画法を使わなくても最適解は発見できるのではないか?と思われるかもしれません。しかし、実は通常の試行錯誤的に条件を変えるやり方では、原理的には最適解にたどり着くことができません。

なぜなら、試行錯誤的な方法では、試さなかった無数の選択肢の中により良い条件が無いと言い切れないからです。これ、大切な点です。

ある条件より良い条件がないというためには、何らかの仮定が必要になります。実験計画法を使用しない場合、往々にしてそれは「ある要因Bを変更したときに、要因Aの効果は変化しないor 変化が小さい」という仮定、すなわち、「交互作用が存在しない」という仮定をしています。

実験計画法では、単純な線形モデルの他に、交互作用や二次効果を含むモデルも仮定して、そのモデルにおける大域的な最適解を発見できます。かつ、少ない試行回数で実験空間全体を網羅したと見なすことができる、という点で、試行錯誤的な実験方法より根拠のある最適解と言えます。

 

まとめ

まとめると、実験計画法が必要な理由は以下の5つです。

  1. 効果の定量的評価ができる
  2. 交互作用を調べることができる
  3. 決められた少ない試行回数で実験が完了する
  4. モデル式でシステムを理解できる
  5. 最適解を発見できる