はじめに
実験計画法には様々な用語や手法があり、勉強し始めた頃はかなり混乱していました。そこで、自分なりに実験計画法の整理をしようと思い、この記事を書いています。実験計画法を勉強し始めた方に参考になれば嬉しいです!
基本となる概念や用語
フィッシャーの3原則
「実験の繰返し」「ランダム化」「局所管理(ブロック化)」という実験計画の基礎となる3つの原則。ブロック化は乱塊法という名前で教科書にのっていることが多い。
要因・因子
実験で調査するパラメータのことを要因、特性に影響を与えうるさまざまなパラメータのことを因子と呼ぶ。つまり、さまざまな因子の中から要因を選ぶ。(例:ペーパーヘリコプターの落下時間には、風向きや実験者など多くの「因子」が存在するが、実験では翼の長さや幅などを「要因」とする。)
水準
要因に設定する値のこと。実験計画において、実際の値ではなく、最低水準-1・中央水準0・最高水準1で表すことが多い。
効果(主効果・交互作用・2乗効果)
効果とは、要因の水準を変化させたときの特性の変化量。主効果は要因の1次の効果。交互作用ABとは(要因Aが水準1のときの要因Bの効果)-(要因Aが水準-1のときの要因Bの効果)のこと。
直交性
「要因Aと要因Bが直交する」とは、要因Aと要因Bの効果が独立に推定できるという意味。直交していないことを、部分的または完全に「交絡」しているという。
レゾリューション(分解能)
計画に対してどの効果まで推定可能かを示す指標。理想はレゾリューションⅤ。
レゾリューションⅢ:主効果同士は直交。ただし、一部の主効果と交互作用、および交互作用同士は完全に交絡。
レゾリューションⅣ:主効果同士および主効果と交互作用は直交。ただし一部の交互作用同士は完全に交絡。
レゾリューションⅤ:主効果および2要因交互作用の間にいかなる交絡もない。
飽和計画
(要因数=試行数)を満たす計画。具体的な計画表のことではないことに注意。
D最適性
計画Xに対して|(XtX-1)|を最小にする(効果の推定誤差をもっとも小さくする)ような性質をD最適性と呼ぶ。他にもI最適性、A最適性などがある。
実験条件を指定するための計画表
要因配置計画(または一部実施要因配置計画)
要因配置計画は総当たりの計画のこと。一部実施要因計画はその何分の一かの計画。
中心複合計画
要員配置計画または一部実施要因配置計画に中心点や軸上の点を加えた計画。
Plakett-Burmann計画
(試行回数=2×要因数-1)のべき乗でないレゾリューションⅢの計画。例えば、12回のPlakett-Burmann計画は11個までの要因の主効果を独立に推定できる効率の良い計画。
決定的スクリーニング計画
(試行回数=2×要因数+1)の3水準のスクリーニング計画。主効果・交互作用・2乗効果の間に交絡が少ないなど、多くの点で古典的な計画(要員配置計画やPlakecett-Burmann計画)より優れる。
配合計画
比率の実験。要因間に制約条件(全部で100%)が存在するため(共線性がある)、そのほかの計画とは異なる。
分割法
変更が困難な要因Aと、変更が容易な要因Bが同時に存在するとき、要因Aの一つの水準につき、要因Bのすべての条件を一斉に実験しする方法。
たとえば、ケーキを焼くオーブンの温度A(水準値をa1, a2, a3とする)と生地B(水準値をb1, b2, b3とする)の最適条件を調べる実験において、温度Aの条件a1につき、全ての生地b1, b2, b3を一斉に調査するやり方。
応用の手法
応答曲面計画
応答曲面(モデル式)を作成し、応答の挙動の理解や最適化を行うアプローチ。具体的な計画表を指すわけではない。”計画表”は何を用いてもよいが、中心複合計画やBox-Behnken計画を用いる場合を応答曲面計画と呼ぶことが多い。要因配置計画に中心点や軸上点を追加して曲面モデルを作り、最適化することも、応答曲面計画のアプローチである。
拡張計画
実験点を追加して、実験を拡張すること。追加方法には、折り返し(同等の計画の一部)、中心点や軸上点の追加(中心複合計画)、D最適性などの基準を用いるなど、様々な方法がある。
多目的最適化
複数の応答を同時に最適化する方法。満足度関数などを利用する方法がある。
ロバスト設計
ばらつきを抑えつつ、目的の特性値を得るためのアプローチ。
タグチメソッド
タグチメソッドという言葉は、あまり明確には定義されてないと認識しているが、田口玄一先生の提案した手法群を指していると思われる。これらの手法群には
- 直交表を作る手法(線点図など)
- ロバスト設計に関する概念(SN比など)
- MT法に関する手法
- その他諸々
など、さまざまな手法があるため、「タグチメソッド」という言葉は、特定の手法を指していない。上にあげた手法のうち、直交表とロバスト設計が、実験計画法の範疇である。MT法でも直交表などを使うが、MT法は異常検知が目的。
実験計画法のややこしさ
以上、実験計画法の用語や手法を一言コメントとともに整理してみました。このような、記事を整理をしたのは、私が実験計画法の勉強を始めたとき、いろいろ混乱したからです。これには2つの原因があったと思います。
一つ目は、ネットで実験計画法と調べたとき、「実験計画法=要因配置計画」のような誤った印象を受けてしまったこと。実験計画法は非常に幅広い概念を含んでいるのですが、要因配置計画は比較的分かりやすいため、より多く説明されており、このような誤解をしてしまいました。
二つ目は、「計画」「設計」「~法」といった言葉が異なる意味で使われていることです。
例えば、要因配置計画の「計画」は実験をどの水準(-1 or 1)で行うかを指定する実験条件の「表」またはその表に沿った「実験」そのものを指します。一方、応答曲面計画の「計画」は応答の挙動を理解することや、最適化をするために応答曲面を作成する「アプローチ」のことを指します。拡張「計画」も同様で、何らかの方法で拡張を行うことに「計画」という名前がついているのはややこしいと言わざるを得ません。
ややこしいことに、『要因配置「計画」を行った後、中心複合計画という拡張「計画」で実験点を増やし、応答曲面「計画」により最適化を行う』というような表現が可能なのです。ここで、「計画」という言葉はすべて異なる意味合いで使われています。
さらに、ブロック因子を導入する「乱塊法」はどのような計画「表」にも適用できる一般的な概念であるのにも関わらず、教科書には要因配置計画と同列で説明されていたりします。
それらの意味合いを知った後なら、特にこだわる必要はないのですが、実験計画法に馴染みがない人にとっては本当にややこしいのです。
もう一点追加すると「タグチメソッド」という言葉をやめてほしい...「田口先生のやり方の一連」であって、特定の方法を指していないので。
私の憶測ですが、先人たちは実験計画法を実務で使えることを重要視していたので、いくつかの手法を「概念的なレベル」で分類することには興味がなかったのかな~と思っています。
本記事が、実験計画法の概観するための手がかりとなれば幸いです。