概要
今回は、前回計画したスクリーニング実験の結果報告と解析を行い、最適点に近づくための拡張実験を計画します。前回の記事(その1)をまだ読んでない方は、まずはそちらから見て欲しいです。
前回のおさらい
前回のペーパーヘリコプターの最適化(その1)では、ペーパーヘリコプターの落下時間に影響を及ぼす9つの要因の効果を調べるため、スクリーニング実験を計画しました。
表1に前回示したスクリーニング計画を示します。実際の値はcm(Wは個数)ですが、表1では低水準値を-1、高水準値を1とした符号で表しています。実際の値との対応は「その1」の記事を参照してください。
表1の計画は7回の過飽和計画をまず初めに試し、それで曖昧さが残るようなら、さらに6回の追加実験を行うというものでした。全体として12回のPB計画+1回のセンターランの計13回の計画になっております。
スクリーニング実験の結果
過飽和計画(7回)のみの解析
まずは表1の過飽和計画のみの結果を表2に示します。実験はペーパーヘリコプターを3mくらいの高さから落としていて、平均的な落下時間は約4秒でした。なお、測定は3回の繰返しています(Time1, Time2, Time3)。
この実験結果を解析するために、主効果のみの一次式のモデルを仮定し、ステップワイズ法によりモデルを選択しました。分散分析をした結果が表3です。
表3では、要因F(ウィングレット長)、G(翼の間隔)、W(おもりの個数)の効果が有意と判定されています(P-Valueが小さい)。Lack-of-Fit(不適合度)のP-Valueが0.001なのでモデルの項が全てゼロ、ということはないようです。
しかし、F、G、Wの効果だけが有意というのは、現実的にあり得るのでしょうか?もっと落下時間に影響を与えそうな要因、例えばR(翼の長さ)は有意ではないのでしょうか?
ここで、表4に交絡関係をチェックしてみました。要因名(Name)にアルファベットを使ってしまったので、ややこしいのですが、Factor A = 要因B(ボディー長)というような対応が表4の上部で、下部のAliasesに交絡関係がズラァっと並んでいます。たとえば、2段目目のC(要因F)はE(要因L)とH(要因Tw)0.6の交絡があり、A(要因B)、F(要因R)、G(要因T)と0.4の交絡があることが分かります。うーん、これでは正しく効果の推定が出来そうにありません。
以上のように、過飽和計画では要因の数より少ない試行回数で実験するため、主効果同士でさえも独立ではありません。したがって、本当は有意なのだけれども、有意でないと見なされている要因が存在する可能性は高いです。したがって、表3の解析結果は妥当ではないと考えます。
ということで、過飽和計画はあまり有用ではないかもしれません。ただ、主効果の交絡を部分的に避けたグループ直交過飽和計画なるものも存在するらしいので、機会があればこれについて調べてみようと思います。
Plakett-Burman計画(過飽和計画のつづきの実験)
7回の過飽和計画では正しい結果が得られていなそうだったので、表1の下半分の実験を実施しました。その実験の結果が表5です。
この結果を1次のモデルに当てはめて解析した結果を表6に、効果のパレート図を図1に示します。
図1のパレート図より、G(翼の間隔)、F(ウィングレット長)、R(翼の長さ)、B(ボディー長)、Tw(テール幅)、L(おもり位置)、W(おもり)の順に効果が高いことが分かります。
なかでも、G・F・R・Bの効果が大きい。G・F・Rはすべて翼の大きさにかかわる因子なので、これらが有意であることは正しいように思われます。
表6はのCoefはそれぞれの項の係数を表しているので、G・F・R・Bの4つだけの効果を採用して落下時間を説明するモデル式を立てると、以下の式が得られることになります。
ここで、各項には実際の値(cm)ではなく、-1~1の値で表していることをお忘れなく!
その他の優位な効果Tw・L・Wを考慮してもいいのですが、これらの要因を排除しても、もっと重要な要因であるG・F・R・Bの最適点を大きく見誤ることはないだろうと判断しました。厳密な最適点の発見より、実験の短縮が大事だと考えれば、小さな効果をもつ要因の排除は妥当だと思います(もちろん、有意な因子間に大きな交互作用があれば、要因を排除することは危険です)。
拡張計画
実験空間の移動
前章で得られた落下時間のモデル式は、B・F・Gが小さいほど、Rが大きいほど落下時間が長くなるというものです。ここで、さらにGに関しては現在の最低値G=-1(0 cm)より小さくできないので、G=-1で固定することにします。
したがって、最適化するパラメータはB・F・Rの3つです。
モデル式から最適点のあたりをつけるためには、実験空間において最急勾配の方向に進めばよいでしょう。モデルは一次式なので、各項の係数を用いて、
(B, F, R) = (-0.16, -0.33, 0.29) ∝ (-1, -2.06, 1.81)=p
が最急勾配の方向pになります。つまり、Bを-1動かすとき、Fを-2.06、Rを1.81動すということです。
今回は、実験空間におけるスクリーニング計画の中心をBに関して-0.75動かし(方向pに沿って)、その新しい中心のまわりで追加の実験を行うことにしました。
図2に、この実験空間の移動を視覚的に表します。
D最適な実験点の選択
さて、図2の拡張計画の点(赤■)をどうやって選んだのか気になりますよね?
結論から言うと、全体の実験が2次のモデル推定に関して「D最適」になるように実験点を選んでいます。「D最適」とは、モデルの項の交絡関係がもっとも少ないということです(適当に実験点を選ぶと、推定したい効果間に大きな交絡ができてしまう)。
D最適と具体的に実験点を選択する手順については下の記事を参考にしてください。
統計言語Rを使った具体的なD最適計画の作成はこちら。
さて、今回は2次モデル(主効果・交互作用・2乗効果)に関して全体計画がD最適になるように、-1.75<B<0.25、-2<F<-0.55、0.36<R<2.36の範囲から7点を選びました。拡張された計画は表7のようになります。
本記事はここまでとして、次回、表7の後半7点(赤色部分)の実験結果を報告します!
まとめ
本記事では、前回立てたスクリーニング計画の実験結果を解析しました。7回の過飽和計画ではやはり正しい推定は難しく、結局は12回のPB計画+1回のセンターランの計13回でスクリーニング計画としました(結果は表5)。
スクリーニング計画の実験結果の解析により、ペーパーヘリコプターの落下時間に特に重要な要因はG(翼の間隔)、F(ウィングレット長)、R(翼の長さ)、B(ボディー長)であることが分かり、モデル式
が得られました(再掲)。この式から翼の間隔G・ウィングレット長F・ボディー長Bは小さいほどよく、翼の長さRは大きいほど良いということが分かりました。なお、Gは0 cmより小さくはできないので、これ以降の実験ではG=0 cmで固定することにしました。
次に、実験点を全体的に最急勾配の方向に動かし、D最適計画を利用した7回の拡張を行いました。
以上が今回の内容です。次回は拡張計画の実験結果を報告し、ペーパーヘリコプターの落下時間の最適化を行っていきます。
次の記事が、本実験の最後の記事です。ぜひご覧ください!!