はじめよう実験計画

実験を早く終わらせるための技術

ペーパーヘリコプターの最適化(その1)|スクリーニング計画の選定

概要

本記事は、ペーパーヘリコプターの落下時間の最適化実験についてまとめたものです。ペーパーヘリコプターはただの紙遊びではありますが、落下時間に影響を及ぼす因子は非常に多く、実験計画法の良い練習になると思います。

今回やることは、「スクリーニング計画」+「拡張計画」という2段階の最適化です。

9つの要因の中から重要な要因を抽出し、出来るだけ少ない試行回数で最適化を行うことを目標にします。

本記事では1段目のスクリーニング計画に焦点を当てました。

ペーパーヘリコプターの落下時間に影響を及ぼす因子

ペーパーヘリコプターは下の動画のようなのものです。紙とはさみがあれば簡単に作れます。高い所から手を離すと、翼が回転しながら落下していきます。

youtu.be

本実験では以下の9つのパラメータを要因として考慮し、ペーパーヘリコプターの落下時間を最適化することにしました。

  • B :ボディー長
  • Bw :ボディー幅
  • F    :ウィングレット長(翼端の折れ曲がり)
  • G   :翼の間隔
  • L :おもり位置
  • R :翼長
  • T :テール長
  • Tw :テール幅
  • W  :おもり(ホチキス)の数

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図1. ペーパーヘリコプターの構造と要因

事前にいくつかのペーパーヘリコプターを作製して、妥当な範囲のパラメータを決定しました。それぞれの要因の水準値としては、表1の値の範囲で調査することにしました。

表1. 要因の水準値(Wはホチキスの個数。その他の要因の単位はすべてcm。)
Level B Bw F G L R T Tw W(個)
-1 2 3 0.5 0 1 6 8 1 2
0 3 3.5 1 0.5 2 7 9 1.25 3
1 4 4 1.5 1 3 8 10 1.5 4

計画の選定

上に挙げた9つの要因の中から、重要な要因を抽出するため、どのようなスクリーニング計画(多くの要因から有効なものだけを抽出するための実験)が使えるか考えてみます。

例えば、コーヒーの実験でも採用した決定的スクリーニング計画(DSD)は、要因間の交互作用や2乗効果を推定でき、1段で最適化ができる可能性をもつ優れたスクリーニング計画です。

しかしながら、今回は要因が9つもあり、DSDでは最低2×9+1=19回の試行が必要。しかも、最適水準が実験範囲に存在しなければ、さらなる試行が必要なため、DSDでは少なくとも20回以上の試行が必要になります。

そこで、今回はスクリーニング計画+拡張計画による2段の最適化を行うことにしました。目標は20回程度の試行で最適水準を見つけることです。

9つの要因を扱える20回以下のスクリーニング計画としては、

  • 一部実施要因配置計画       :16回(レゾリューションⅢ)
  • Plakett-Burman(PB)計画   :12回(レゾリューションⅢ)
  • 過飽和計画(PB計画の1/2) :6回

 が可能な計画として考えられます。「レゾリューションⅢ」とは主効果同士は直交しているが、交互作用と交絡することを意味します。つまり交互作用は見つけられないってことです。

一部実施要因配置計画

はじめの一部実施要因配置計画は最も古典的ですが、要因の数9より大きな2のべき乗回の試行が必要なため、9要因では最小回数は16です。スクリーニング計画だけで16回使ってしまうのは効率が悪い気がするので、今回は採用しないことにします。

Plakett-Burman計画

次のPlakett-Burman(PB)計画は12回で実行可能です。レゾリューションⅢなので、いくつかの主効果と交互作用は完全に交絡します。12回のPB計画は表2のようになります。

表2. 12回のPB計画
B Bw F G L R T Tw W
1 1 -1 1 -1 -1 -1 1 1
-1 1 1 -1 1 -1 -1 -1 1
1 -1 1 1 -1 1 -1 -1 -1
-1 -1 1 1 1 -1 1 1 -1
1 -1 -1 -1 1 1 1 -1 1
-1 1 -1 -1 -1 1 1 1 -1
1 -1 1 -1 -1 -1 1 1 1
1 1 -1 1 1 -1 1 -1 -1
1 1 1 -1 1 1 -1 1 -1
-1 1 1 1 -1 1 1 -1 1
-1 -1 -1 1 1 1 -1 1 1
-1 -1 -1 -1 -1 -1 -1 -1 -1

過飽和計画

最後の過飽和計画とは(要因数≥試行回数)を満たす計画のことです。

過飽和計画はPB計画の半分を使って作成できます。9要因6回の過飽和計画を作成するには、10要因12回のPB計画のある1列を「指標列(indicator)」とし、指標列が1または-1になる列を選びます。具体的に説明すると、図2のように、右端の列を指標列"Indicator"とします。そして、"Indicator"が-1(または1)となるすべての列が過飽和計画になります。指標列は計画には含めません。

 

f:id:Sturgeon:20200304154454p:plain

図2. 過飽和計画。Indicator(指標)列を含めると10要因12回のPB計画であり、Indicatorが-1または+1となる計画の半分が過飽和計画になる。

表3は図2のやり方で作成した9要因6回の過飽和計画です(図2の赤色部分と同じ)。

表3. 9要因6回の過飽和計画
B Bw F G L R T Tw W
1 1 -1 1 -1 -1 -1 1 1
-1 1 1 -1 1 -1 -1 -1 1
1 -1 1 1 -1 1 -1 -1 -1
-1 -1 1 1 1 -1 1 1 -1
1 -1 -1 -1 1 1 1 -1 1
-1 1 -1 -1 -1 1 1 1 -1

 過飽和計画は、うまくいけば6回の試行で9要因を調査できるため、驚異的です。しかし、残念ながら主効果どうしが独立ではありません。表4は主効果の相関を表していて、すべての主効果は他の主効果と約0.3の相関があることがわかります。そのため、過飽和計画では有意な要因が抽出できない恐れがあります。

f:id:Sturgeon:20200302210428p:plain

表4. 過飽和計画(PB計画の1/2)における主効果どうしの相関

そこで、今回はひとまずは過飽和計画(表3)を試してみて、有意な効果が明らかになれば儲けもの、明らかでなければ12回のPB計画の半分(図3の下半分)を行う、という方針にしました。

 以上から、最終的なスクリーニング計画を図3のように計画しました。RunOrder 5の行はすべての要因の水準を0とした条件で、加えても加えなくても良いのですが、計画のバランスには影響がないため、実験に加えました。

繰返しになりますが、まず図3の過飽和計画を行い、有意な要因が明らかでなければさらに6回の実験を行う、という流れになります。

 

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図3. 最終的なスクリーニング計画。全体は12回のPB計画+1回のセンターラン(全要因の水準値0の点)。

 

まとめ

本実験では、ペーパーヘリコプターの落下時間の最適化にあたり、スクリーニング計画+拡張計画の2段の最適化を行います。1段目のスクリーニング計画として一部実施要因計画、Plakett-Burman(PB)計画、過飽和計画を検討しました。その結果、はじめに6+1回の過飽和計画を実施し、有意な要因の抽出に曖昧さが残れば、続けて6回の実験(全体として12回のPB計画+1)を行う方針としました(図3)。

次回「その2」で、スクリーニングの実験結果を報告します!

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