はじめよう実験計画

実験を早く終わらせるための技術

決定的スクリーニング計画の例:コーヒーの淹れ方(前編)

概要

決定的スクリーニング計画(DSD)を使った「おいしいコーヒーの淹れ方」の前編です。

「お湯の温度・豆の粗さ・蒸らし時間・抽出時の水位」という4つの要因を考え、たった14杯のコーヒーを淹れ、自分好みのコーヒーにたどり着くことができたので前編・後編にわたってまとめてみました。

DSDの原理については以下のページをご覧ください。

sturgeon.hatenablog.com

 

調べる要因の検討

まず、コーヒーの淹れ方については、いくつかのサイトを参考にして、以下の4つの要因を検討することにしました。

  1. お湯の温度 (Temperature)
  2. 豆の粗さ (Grain)
  3. 蒸らしの時間 (Steam)
  4. 抽出時の水位 (Heigt)

 

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以上の4つの要因はいずれも連続変数です。これらを選んだ理由は、味に影響を及ぼし得る要因であるのはもちろんのこと、コントロールが比較的簡単だと思ったからです。

ちなみに、抽出時の水位の違いは、水圧の違いをもたらします。また、コーヒーの淹れ方では、抽出時間が重要因子として扱われることが多いですが、水位や豆の粗さによっても抽出時間がかなり異なるため、コントロールが難しいと考え、要因には含めませんでした。

実験の計画

本実験では4つの要因ごとに、表1に示す3つの水準を調べることにしました。

表1. 水準の値
  Temperature Grain Steam Height
-1 85℃ -1(細) 20s -1(低)
0 90℃ 0(中) 40s 0(中)
1 95℃ 1(粗) 60s 1(高)

次に、DSD実験のデザインマトリックス(実験を行う条件を指定する表)を表2に示します。表2の-1,0,1は表1と対応しています。Runは試行の順番で、上から順にではなく、ランダムに実験を行います。

各列が一つの試行を表しています。例えば、1行目のRun 4は4杯目のコーヒーで、Temperature=0(90℃)、Grain=1(粗)、Steam=1(60s)、Height=1(高)の条件で淹れたという意味です。

表2. デザインマトリックス
Run Temperature Grain Steam Height
4 0 1 1 1
8 0 -1 -1 -1
2 1 0 1 -1
7 -1 0 -1 1
6 1 1 0 1
10 -1 -1 0 -1
9 1 -1 1 0
5 -1 1 -1 0
14 1 -1 -1 1
12 -1 1 1 -1
13 1 1 -1 -1
11 -1 -1 1 1
1 0 0 0 0
3 0 0 0 0

表2のデザインでは2×4+1=9回の最小試行回数のDSDに偽要因による4回の拡張(Run 11~14)とセンターラン(Run1と3)の2回の繰返しを行っている。これらの拡張についてはこちらをご覧ください。

最後に、コーヒーの味の評価方法についてです。 

味は香り(Flavor)・苦み(Bitter)・酸味(Sour)の3項目とし、それぞれの項目に0~5までの点数をつけて評価することにしました。

味の評価は主観的なので本当に難しいです。一度に何杯も飲むと、後半に飲んだコーヒーはまずく感じるでしょうから、一日に飲むのは4、5杯とし、1回につき少量だけ飲むことにしました。

また、同じコーヒーを飲んだとしても、全く同じ評価はできません。この点があまり問題ではないことを主張するため、センターラン(Run1と3)を異なる日に実行し、だいたい同じ点数をつけることが出来れば、評価にブレがあったとしても、大きな問題はないものとしました。

結果と考察

表3に0~5点でコーヒーの味を評価した結果を示します。

表3. 結果
Run Flavor Sour Bitter
4 2 3 1
8 3 3.5 3
2 1 2 0.5
7 2.5 3 5
6 2.5 3 4
10 3 3 3.5
9 2 2.5 2
5 4 3.5 3
14 4 4 3
12 4.5 3 1
13 3.5 4 3
11 4.5 4 3.5
1 2 3 3.5
3 1.5 2 3

主効果残差プロット

コーヒーは毎回異なる条件で淹れているため 、表3の実験結果の直接的な解釈は容易ではありません。

そこで、図1に示した主効果残差プロット(詳細はこちら)というプロットを通して各要因の効果を大雑把に把握することができます。例えば、TemperatureのプロットはTemperature以外の3要因の影響を取り除いた値で、Temperatureの"純粋な"効果を表すものと見なすことが出来ます。

直線の傾きが大きいほど、その要因の効果が大きいということを意味します。したがって、例えば香り(Flavor)に関してはTemperatureとHeightの効果が大きく、その他の要因効果は小さいことが分かります。

 

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香り(Flavor)。TemperatureとHeigntの傾きが大きい。

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酸味(Sour)。強いて言えばHeightの傾きが大きい。

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苦み(Bitter)。どの要因もゼロでない傾き。特にHeightとSteamのばらつきが小さい。

図1. 主効果残差プロット

モデルの作成

次に、Flavor、Sour,、Bitterの挙動を説明するモデルの作成を行いました。

2次までのモデル式(主効果・交互作用・2乗効果だけを含む)を仮定し、最小のAICc(有限補正付き赤池情報量基準)を与えるモデルをもっともよいモデルとしました。

香り

香り(Flavor)に対して、以下のモデルが得られました。

Flavor  = 2.1-0.55Temperature-0.3Height+1.0Temperature2-0.86Temperature*Height

このモデルをコンタ―図にすると図2のようになります。図2より、温度(Temperature)と水位(Height)には交互作用があることがわかります。これは、高温では低い水位で香りが良く、低温では高い水位で香りが良いということです。逆に、温度も水位も高くすると、あまり香りのないコーヒーになるようです。

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図2. Flavorのコンタ―図
苦み

同様に、苦み(Bitter)についてもAICcにより選択されたモデル

Bitter=3.5-0.9Height+0.55Steam-1.0Height2

を図3に示します。図3より、蒸らし(Steam)は長時間であるほど、水位(Height)は低いほど苦みが強く出ることがわかりました。

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図3. Bitterのコンタ―図
酸味

最後に、酸味(Sour)については有意な効果が水位(Height)しかありませんでした。モデル式は

Sour = 3.1-0.35Height

のようになり、水位が低いほど酸味が強くなるということを示しています。

さて、以上のFlavor, Bitter, Sourの3つのモデルを使用すれば、自分好みのコーヒーを淹れられるはず。ここまででかなり内容が多くなってしまったので、最適化の結果は次の記事にて報告しようと思います。

まとめ

以上、決定的スクリーニング計画 (DSD)を適用した「おいしいコーヒーの淹れ方」前編でした。

「お湯の温度・豆の粗さ・蒸らし時間・水位」の4つの要因を取り上げ、各要因の水準を変えながら14杯のコーヒーを淹れました。結果として、「香り」には温度と水位、「苦み」には蒸らしと水位、「酸味」には水位が影響することが分かりました。

後編の記事では、自分好みのコーヒーを淹れるべく、各味を目標の値にするには要因の値をどう設定すればよいのかを検討します。

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