はじめよう実験計画

実験を早く終わらせるための技術

折り返し24回Plackett-Burmann(プラケット・バーマン)計画

はじめに

Fold-over 24-run Plackett-Burmann計画(折り返し24回プラケット・バーマン計画)とは12回のPB計画を2回分組み合わせた計画です。以下では24回PB計画と書くことにします。

24回PB計画の基本は12回のPB計画なので、12回PB計画をまだ知らないよ~という方は、先にこちらをご覧ください。

www.doe-get-started.com

 

24回PB計画をどんなときに使うか?

一般的に、PB計画はスクリーニング(実験初期に多くの因子の中から、有効な因子を絞り込む)目的で使用します。

そのため、できるだけ少ない実験回数で、より多くの因子を調べることが必要です。

しかし、12回のPB計画は、主効果と交互作用や、交互作用同士に一部交絡関係が存在するため、モデル(実験結果を説明する数式)の作成時に、あいまいさが残るケースがよくあります。

その場合、追加の実験を実施することで交互作用の交絡関係を減らし、あいまいさを解消することができます。

この追加の実験として、最初の12回PB計画の逆符号をとり、もう一度PB計画を実施するのが24回PB計画です(図1)。

 

図1 前半12回と後半12回を合わせて24回PB計画。最終列に前半と後半を分けるためのブロック因子を導入している。

 

24回PB計画の特徴(ほかの計画との比較)

12回PB計画 vs 24回PB計画

相関のカラーマップを比較すると、12回PB計画では主効果と交互作用に一部交絡関係があったのが(図2A)、24回PB計画では主効果と交互作用の交絡は完全になくなります(図2B)。ただ、依然として交互作用同士の交絡は一部存在します。

 

図2 12回PB計画(A)と24回PB計画の因子間の相関のカラーマップ

 

24回PB計画 vs 一部実施要因配置計画 32回

24回PB計画の良いところは、主効果と交互作用がすべて直交する性質があることです。

この性質を16回の一部実施要因配置計画で担保しようと思うと、許される要因数は8以下となり、考慮できる要因数では24回PB計画が勝ります。

また、32回の一部実施要因配置計画では要因数こそ15個考慮できますが、完全に交絡する交互作用の組が存在するため、交互作用同士の切り分けができる点で24回PB計画の方が有利です。

 

24回PB計画の解析

解析手順

24回PB計画の解析は以下の手順で実施することが推奨されています(A Miller and R R Sitter, 2012)

  1. 主効果のみの分散分析
  2. Step1で有効な主効果と、”弱い遺伝性”を仮定した交互作用を含めて、すべての可能なモデルから良いものを選ぶ

ここで、”弱い遺伝性(weak heredity)”というのは何かというと、有効な交互作用を構成する2つの因子のうち、少なくともどちらか一方が有効だということです。たとえば、主効果Aのみが有効である場合、弱い遺伝性を仮定すると、候補となる交互作用はAB, AC, …, ALのように、Aを含む交互作用のみになります。

 

Rで実践

実際に24回PB計画を作成と解析をテストデータを用いてやってみましょう。

24回PB計画の作成は、ライブラリFrF2のpbを使ってrbindで作成できます。

テストデータは

 Y=4A+5B+6D-4AB+4AD+3BC+\varepsilon,\ \ \ \varepsilon\sim N(0,1)

で生成した架空のデータです(図3)。

 

図3 24回PB計画とテストデータ

 

まず、前半12個のデータが(図3のblock-1)得られたとすると、11個すべての因子に対して主効果を調べるためには誤差の自由度が足りないので、Half Normal Plotを作図すると、図4のようになります。

library(FrF2)
X <- pb(12) #12回PB計画
X_n <- data.frame(apply(X, 2, as.numeric), "block"=rep(-1,12))
X24 <- rbind(X_n, -X_n) #24回PB計画
set.seed(0)
#テストデータ前半12回
y1 <- 4*X_n$A + 5*X_n$B + 6*X_n$D - 4*X_n$A*X_n$B + 4*X_n$A*X_n$D + 3*X_n$B*X_n$C + rnorm(12, sd=1)
#テストデータ後半12回
y2 <- -4*X_n$A - 5*X_n$B - 6*X_n$D - 4*X_n$A*X_n$B + 4*X_n$A*X_n$D + 3*X_n$B*X_n$C + rnorm(12, sd=1)
#主効果のHalf Normal Plot (前半12回のデータ)
Xm <- as.matrix(X_n[,-12])
contrast_main <- abs(solve(t(Xm)%*%Xm)%*%t(Xm)%*%as.matrix(y1)*2)
halfnormal(contrast_main, labs = rownames(contrast_main), alpha = 1)
 

図4 前半12回のPB計画の結果から作図したHalf Normal Plot

 

図4より、有効な主効果としてD,B,J,A,Cがピックアップできそうですが、ここで注意が必要です。

12回PB計画では、例えば主効果Jと交互作用ABに交絡(相関係数0.333)があるため、交互作用が大きい場合、本来効果のない主効果が誤って有効になってしまう恐れがあります。

12回のPB計画は、基本的には大きな主効果のみ(あるいは小さな交互作用)が存在する場合でしか機能しないため、交互作用の大きさが無視できない可能性があるときは、追加の実験が必要になります。

今、無視できない交互作用があると考えて、図3の後半12回を実施しました(block1)。

24回の実験結果がそろったら、主効果のみで回帰分析を行います。前半12回での解析と違って、誤差の自由度がゼロではないので、Half Normal Plotではなく普通に分散分析ができます(図5)。

 

図5 24回PB計画の主効果のみの分散分析

 

有意な主効果がA, B, Dであることが分かります。前半12回までと違い、24回PB計画では交互作用と主効果は直交しているため(図2)、交互作用に影響されず主効果を正しく評価できています。

図5より、有効な主効果がA,B,Dのため、弱い遺伝性を仮定すると、交互作用項の候補群は、

AB, AC, AD, AE, AF, AG, AH, AJ, AK, AL, A.block, BC, BD, BE, BF, BG, BH, BJ, BK, BL, B.block, CD, DE, DF, DG, DH, DJ, DK, DL, D.block

です。A,B,Dに加えて、上の候補群からForward-Stepwise法で選ぶと、もともとの式

 Y=4A+5B+6D-4AB+4AD+3BC

で有効な"A"  "B"  "D"  "AB" "AD" "BC"が正しく得られることが分かりました(下コード実行結果)

#交互作用項を作成
X2 <- add_interaction(data.frame(X24), only_additional = T)
#A,B,Dを含む交互作用だけを抽出
tfi_index <- unique(c(grep("A", colnames(X2)),
                      grep("B", colnames(X2)), 
                      grep("D", colnames(X2))))
X2_candidate <- X2[,tfi_index]

#Forward-Stepwise法
selectX2(X_main = XY24[c("A","B","D")], X_resevoir = X2_candidate, Y = c(y1,y2))

#実行結果
$params
$params1
[1] "A" "B" "D"
$params2
[1] "A"  "B"  "D"  "AB"
$params3
[1] "A"  "B"  "D"  "AB" "AD"
$params4
[1] "A"  "B"  "D"  "AB" "AD" "BC"
$AICc
$AICc1
[1] 166.172
$AICc2
[1] 154.3113
$AICc3
[1] 138.1279
$AICc4
[1] 81.2164

 

24回PB計画で推定可能な因子数

24回PB計画では12個までの主効果をすべて推定できます。交互作用に関しては、5個までならすべての交互作用が推定可能、9個までなら9割以上の交互作用の組が推定可能です。このように複数の交互作用を同時に評価できるPB計画の性質はとても魅力的です。

比較として、16回・32回の一部実施要因配置計画では、交互作用同士に完全な交絡があるため、4個以上の交互作用がある場合は50%以上のケースで評価ができません。

 

まとめ

通常の12回PB計画では、交互作用と主効果の交絡のために、モデルにあいまいさが残る場合があります。そのような場合、もう12回の実験を追加した「折り返し24回PB計画」によって、交互作用が多い場合でも正しく有効な因子を抽出できることを紹介しました。

また、折り返し24回PB計画は、完全に交絡する交互作用の組が存在しないという点で、16回や32回の一部実施要因配置計画より有利な計画です。

数多くの因子を扱う場合にはどうしても試行回数が必要なため、効率よく実験できる24回PB計画を候補の一つに加えてみてはいかがでしょうか?

 

参考文献

Using the Folded-Over 12-Run Plackett—Burman Design to Consider Interactions, A Miller and R R Sitter, 2012, https://doi.org/10.1198/00401700152404318